로그인翌朝、範経はベッドの中でまだうとうととまどろんでいた。ノックの音がしてドアが開き、ローズの声が聞こえた。「エロリック、いるか?」 範経は体を起こした。ローズは遠慮なく部屋の中へ入ってきた。「まだ起きていなかったのか?」「朝が苦手なんだよ」「朝飯を食いに行こうぜ」 二人は部屋を出て階段を降りた。ホテルの一階は吹き抜けの高い天井になっており、その一角でレストランが営業していた。 入り口には、ねじくれた観葉植物が植えられた大きな植木鉢がいくつも並んでいた。そこに咲く花は、花弁の形が複雑で見る角度によっては人の顔のようにも見え、不気味な雰囲気を漂わせていた。 ウエイターに案内され、窓際のテーブルに座った。ローズはすぐに二人分の朝食を注文した。 やがて、焼いた卵と肉をのせた大きな皿、パン、そして果物が山盛りに入ったバスケットが運ばれてきた。「昨晩は楽しめたか?」とローズ。 範経は熱いお茶をすすり果物をかじり、昨夜のいきさつを話し始めた。リリからサービスを受けたあと軽く眠ってしまったこと、娼婦になる前のことを尋ねて機嫌を損ねたことなど、だいたいの顛末を語った。「すっかり嫌われたようだ」「それはあんたが悪い」 静かに聞いていたローズは、きっぱりと言って顔をしかめた。「なぜ?」「初対面の女に過去を聞くな」 範経は下を向いた。「しかも相手は娼婦だぞ」 ローズはやれやれといった表情を浮かべた。まるで、これだから子供は困ると言いたげだった。「仕方ないだろ。ぼくにとっては、この世界も、ああいう女性も初めてなんだ」「だが、その程度のことは常識でわかるだろ」 範経はため息をついた。この異世界でも、やはり自分は常識外れなのだろうか、と考えてしまう。「娼婦なんて二度とごめんだ」「お前、本当に子供だな」「どうすればよかったんだよ?」「あの兎女とは、一晩中やればよかったんだよ。二回目にあんたがしたみたいに押し倒して、そのまま朝まで続ければよかった。気が済むまで、徹底的にな」「そんなことをして、構わないのか」「お前はあの女の娘の命を助けたんだ。それくらいのことは覚悟していたはずだろう。それなのに、一万ビットをくれてやるなんて余計なことだ」「本当に?」 範経はローズの顔を見た。「いや、むしろその方が、お互いのためだったはずだ。お前は満足でき
リリとの交わりのあと、範経はそのまま浅い眠りに落ちていた。体を軽く揺すられて目を開けると、すぐ近くにリリーの顔があった。「どうかなさいましたか?」 その声は柔らかかったが、どこか他人行儀でもあった。範経は思わず目尻に滲んだ涙を指先で拭い取った。「いや、何でもない」 そう言って体を起こし、もう時間かと思いながらベッドの縁に腰を下ろした。リリも静かにその隣に座った。「寂しそうに見えました」 リリは心配そうに範経の顔をのぞき込んだ。ホームシックにかかった少年のように見えたのだろうか。「ああ、以前のことを思い出していた」「今朝、転生なさったと伺いました」「そうだ」「この世界はいかがですか?」「よくわからない。ぼくはなぜここにいるんだ……」「え?」 リリは意外そうに眉を上げた。「リリはいつからこの世界にいるんだ?」「お答えできません」 一瞬、リリの顔に狼狽の色が走った。「この世界のことを知りたいのだが……」「ご質問の意味を、分かりかねます」「お前も、初めから娼婦だったわけではないのだろう?」 リリはすっと立ち上がった。「お茶でもいかがですか?」 リリは冷たく範経を見下ろしながら言った。その声には、先程までの温もりは微塵もなかった。「ぼくは好きでここにいるわけじゃない……」 範経は俯いたまま、独り言のように呟いた。リリははっとしたように目を見開き、何か言いかけた。 範経は今更ながら、娼婦を抱いたことを激しく後悔した。立ち上がり、散らばった服を手に取り、急いで身に着け始めた。「ありがとう。オレは帰るよ」 その一言に、リリは表情を変えた。「お待ちください」「何だ?」「お帰しするわけにはいきません」「なぜだ?」「まだ、ご満足いただいておりません」「十分に礼を受け取った」「これでは、お礼になっているとは思えません」「だが、あんたは十分に尽くしてくれただろう。それで十分だ」 リリは一歩踏み出し、範経の前に立ちふさがった。「もういいんだ。オレはあんたのことが好きじゃない」「どういう意味でしょうか?」「金で女を買うなんて性に合わないんだよ。好きでもない女と向き合う理由が、ぼくにはわからないよ」「娼婦ごときに何をお求めでしょうか?」「あんたは子どもを助けてもらった借りを返すためだけに、オレをもてなしたのだろう?
酒場のざわめきは、まだ耳の奥に残っていた。その向かいには、いかにも逢引きに使われそうな宿が、さりげなく、しかし露骨に建っている。ロマネスク風といえば聞こえはいいが、実際にはけばけばしく安っぽい。外壁にはピンクや黄色の光がせわしなく点滅していた。 リリに促されるまま、範経は小さな入口をくぐった。中に入っても空気は変わらない。けばけばしい照明ばかりがやけに目に突き刺さり、妙に落ち着かぬ気配が建物全体に漂っていた。 リリは何も言わず、受付で鍵を受け取ると、黙って階段を上り始めた。範経も無言でその後に従う。二階の廊下を少し進んだところで、彼女は一つのドアを開け、軽く顎で中へ入るよう促した。 それからのリリの動作は無駄が一切なかった。そして、営業用の作り笑いを唇の端に薄く浮かべた。 部屋に入るなり、リリは範経の体に寄り、手早く服を剥ぎ取った。自分もさっさと脱ぎ捨てると、そのまま範経をバスルームへ押し込んだ。たちまちシャワーの湯が、頭から降り注いだ。 リリはタワシとスポンジに石鹸をたっぷりと含ませ、範経の体を丁寧に、しかし事務的に洗い始めた。頭の天辺から足の先まで、まるで順序立ててなぞるように。範経はただ、じっと耐えていた。下ごしらえをされる野菜のような気分だった。 やがて彼女はバスタオルで水気を丹念に拭き取り、範経を大きなベッドのある部屋へと移した。動作は終始淡々としていて、いかにも一連の手続きのようであった。 裸のリリが、媚びるような表情を顔に浮かべ、音もなく彼の前に立った。その体は、どこか現実離れした均衡を保っていた。豊かに張り出した胸、きつく絞り込まれた腰、そしてその下に続く骨盤の大きさが、不思議な均衡を保っている。範経はただ眺めているだけで、内側にじわりと熱が生じるのを覚えた。 リリは何も言わず、作り笑顔をその顔に張り付けたまま、範経をベットへと導いた。仰向けに横たえさせると、その上にまたがった。自然と見下ろす形になる彼女と、見上げるしかない範経。視線の交錯は、ほんの一瞬だった。彼女の股間に、不自然に赤く大きく膨らんでいる大陰唇が範経の目に映じた。その異様な艶は彼の内に潜む欲情を、じわりと、しかし容赦なく掻き立てた。 不気味なほど隆起した大陰唇の間の割れ目がぱっくりと開き、柔らかな襞がはみ出し、内側よりピンク色の粘膜が、ぬめりを帯びて露わ
範経は兎女の娼婦リリーに導かれるまま「ビストロ・モンストレ」の戸口を離れ、表通りへと歩み出た。外は相も変わらず色とりどりの街灯が明滅し、その光はむしろ不快なほどに眼を刺した。 リリの背丈は、姉の瞳とほぼ同じほどであった。背の低い範経が並べば、その視線はおのずと彼女の首もとに落ちる。そこから漂う香りは乾ききった花の残り香のように、かすかに胸の奥を騒がせた。 だが、がっしりとした体つきの瞳に比べれば、リリの骨格はひどく華奢であった。範経はそっとその腰へ手を回す。胸と尻にはほどよく肉がついているのに、くびれた胴は驚くほど細い。思わず力を入れるのをためらうほどであった。 リリは冷ややかな表情を崩さぬまま、ひと言も発せず歩き続けた。やがて表通りから二筋ほど奥へ入ると、ひっそりとした細い路地に出た。安っぽい酒場の前のテラスには、三人のならず者めいた男たちが、だらしなくたむろしていた。 その中から、頭に牛の角を生やした大柄な男がリリの方へ歩み寄った。「リリ、また客引きか」「そうよ」「子供じゃねえか」「腰抜けのあんたと違って、れっきとした冒険者様よ」「なんだと!」 その言葉を聞くや、範経は思わずリリの肩を押しのけ、男との間へと身を滑り込ませた。「やる気か」 男の声が低く響いた。 範経が身構えるや否や、角を戴いた男は腰の短剣へ手をかけ、ほとんど反射のようにそれを抜き放った。 だが、刃が光ったのとほとんど同時に、範経の足が男の手首をはじいた。短剣は乾いた音を立てて地面に転がった。範経は一歩踏み込み、相手の動きを封じるように距離を詰めた。 その成り行きを眺めていた残りの二人が気怠げに歩み寄って来る。一人は巻いた羊の角を頂き、顔には古傷の走る男。もう一人は血の気を欠いた細面に、鋭い角を突き出した背の高い痩身の男だった。いずれも腰にはサーベルを帯びていた。「リリ、ここで揉め事を起こす気か」 羊角の男が低く言う。「このでくの坊が、先に刃物を抜いたのよ」 リリは淡々と返す。「それは見ていたさ。だが、そのお坊ちゃんはお前の客だろう」と男。「正当防衛よ」 リリの声は夜気よりも冷たかった。「こいつが脅しで小刀を抜くのなんて、いつものことだ。それに人を斬る度胸なんてありゃしない。お前も知ってるはずだ」 羊角の男が、ため息まじりに言った。「バカ犬には、ち
範経とローズは声のした方へ顔を向けた。そこには、ひょろっと背の高い女が一人、いつの間にか立っていた。 胸元の大きく開いたブラウスは今にも張り裂けんばかりの豊かな胸を押し上げ、短いスカートの裾は、かろうじて大きな尻を隠していた。愁いを帯びたその顔は、若くないはずでありながら、なおどこか幼いあどけなさを残していた。つぶらな瞳が、妙に印象的だった。その頭上には不自然なほど大きな兎の耳が、まるで哀しみを嘲笑うかのように載っていた。「少し、お話をさせていただけないでしょうか」 女は控えめながら、拒否を許さぬ響きを帯びた声で言った。「何の用だ?」 ローズは、面倒くさげに答えた。「わたくし、リリと申します。昼間、蛇の目池で、エロリック様に助けていただいた子供――ぺぺとネネの母でございます。本日は、そのお礼を申し上げたく参りました」「なんだ、そんなことか」 ローズは肩の力を抜いた。「本当に、ありがとうございました」 リリーは深く頭を下げた。その仕草は、どこか芝居じみているようだが、しかし真摯でもあった。「別に気にしなくてもいい」 範経は、やや戸惑いながら答えた。「いいえ、そういうわけには参りません」 そう言うと、リリは空いている椅子にためらいなく腰を下ろし、手にしていたハンドバッグを静かにテーブルへ置いた。その一連の動作は、まるで日常の所作のように慣れきったものだった。 ローズはそれを見て、得心したように小さく頷いた。 範経の戸惑いを察したローズは身を寄せ、小声で囁いた。「この女は娼婦だ」「え?」「お代はいただきません」 リリーは、範経の驚きをよそに、穏やかだが断固とした言葉を継いだ。「そんなつもりで助けたわけではない」 範経は思わず言い返した。「承知しております。ですが、それでもお返しがしたいのです」「だが……」 言いかけて、範経は口をつぐんだ。リリの目に、かすかな翳りが差したのを見たからだ。「エロリック、嫌なのか?」 ローズが横から問う。「そうではないが……こういうのは初めてなんだ」「まあ、そうだろうな」 ローズは軽く鼻で笑った。「若いし、女には不自由していなかった顔だ。金で買うなんて経験はなさそうだな」「わたくしでは、ご不満でしょうか」 リリーの声には、わずかな震えがあった。「そういうことではない」「断る
来店の折、席へ案内した給仕が、やがてまた静かに顔を現した。「お食事は、お口に合いましたでしょうか」 その声には、どこか慎ましやかな、控えめな気遣いが滲んでいた。「悪くない」 範経が素っ気なく答えると、給仕はほっとしたように、ほのかに微笑んだ。頭の上の不釣り合いな大きな耳を、わずかに震わせながら。彼は手際よく、食後の皿を一枚ずつ重ねていった。「お飲み物をお持ちいたしましょうか」「ああ、バーボンをもう一杯。エロリックはどうする?」「コーヒーをもらえる?」「かしこまりました」 給仕は一礼し、なおもその場に留まって言葉を添えた。「デザートはいかがなさいますか」「アイスクリームはある?」と範経。「ええ、もちろんでございます」 ウエイターは静かに一礼し、立ち去った。 範経はローズと向かい合い、コーヒーを静かにすすった。この異世界へ来て以来、初めて心の奥底がほどけるような、穏やかな気分だった。 彼は普段ほとんど口にしないアイスクリームをスプーンですくい取り、ゆっくりと口へ運んだ。濃厚な甘みが舌の上で溶けゆくのを、はっきりと意識した。これまで味わったことのない不思議な満足感が胸の奥底に、静かに広がっていった。 店内は混み合っていた。酒をあおりながら陽気に騒ぐ冒険者らしい一団。家族連れで静かに食事を楽しむ者たち。店の外の通りからは楽器を奏で歌う声が流れ込み、ざわめきは絶え間なく続いていた。 そんな喧騒の只中にあって範経はむしろ、ゆったりとした気分に深く浸っていた。 先ほどまでこの世界特有の原色の強いきらめき――目に刺さるように感じられたそれが、今ではかえって心地よい刺激へと変わりつつあった。まるで毒々しい色彩が、いつしか優しい光に溶けていくかのように。 ローズはくつろいだ様子で、バーボンを静かにあおっていた。 範経はさらにコーヒーを口へと運びながら、ふとこれまでの自分の生活を思い出した。家では姉妹たちに過保護なほど大切に扱われ、学校では由紀と祥子を除けば、誰にもまともに相手にされない。どこか変人扱いされ、息苦しい日々のことを。 ――いっそ、このままこの世界にいても、いいのではないか。 そんな考えが、ふと頭をよぎる。ここでは誰に気を遣うこともない。ただ、自分のままでいられる気がする。 だが同時に、ここは自分の属する世界ではないという事実
美登里が事情の説明を始めた。「話が長くなるけど、三年前に私たちの両親が経営していたアルゴーという会社が二つに分かれたの。父親の第二アルゴー社と母親のローレル社よ。そのとき涼子姉さんは会社を辞めたの。ちなみに、範経と私が第二アルゴー社、圭と明がローレル社に所属したわ」と美登里。「それで私は出戻ってきたの。こんな内輪の話、この子にしてもいいの?」と 涼子。「麗華は父の義理の娘で、この子の母親は第二アルゴーの社員よ」と美登里。「会社の話はすべて秘密だから、外ではしゃべっちゃだめよ」と美登里。「あの、さっきから由紀さんと祥子さんも聞いてます。私と一緒に家に入って来て
美登里は範経と圭、明に向かって言った。「三人とも聞いて。今日からまた、涼子姉さんがここに住むことになったから」「さっきの駆け落ちの話は何?」と圭。「あわよくばって思ったの。でも半分本気よ。またみんなで楽しく暮らしましょう」と涼子。「なぜ今更戻ってきたのか理由を聞かせてもらえないかしら」と明。「涼子姉さんは母さんの会社に戻ってくることになったの」と美登里。「寛子叔母さんから、ぜひって頼まれたのよ」と涼子。「何で今更?」と圭。「範経の親権よ」と涼子。「何の関係があるの?」と明。「叔母さんに範経との交際を認めてもらったの。それが会社で働く条件なのよ」と涼子
ある週末の昼間、一人の女性が範経の枕元に立った。「範経、久しぶりね」「ああ、涼子姉さん」と範経。「寝てるの?」と涼子。「体調が悪いんだ。熱があって」と範経。「そう。また無理してるのね。体が弱いくせに」と涼子。「何しに来たの?」と範経。「あなたを連れ出しに来たの。約束したでしょ、ちゃんと居場所を作ってあげるって」と涼子。「いらないよ、そんなもの」と範経。「ここがいいの? あなた、こんな趣味だったかしら」と涼子。「ここは圭と明の部屋だよ」と範経。「妹のベットで寝てるの? シスコンなのね」と涼子。「余計なお世話だよ」と範経。「心配になるわ、大切な従弟が実
美登里と範経と麗華の三人は、父が経営する会社「第二アルゴー」の本社を訪ねた。「社長、範経を連れてきました」と美登里。「久しぶりだな、美登里。今まで通りお父さんと呼んでくれよ。頼む。この通りだ」と父の幸一。「来ましたよ、社長」と範経。「範経、お前も頼むよ」と幸一。「お父さん!」と麗華。「麗華ちゃん、よく来てくれたね」と幸一。「お父さんとは呼べません。範経をずいぶん殴ったそうですね」と美登里。「悪かったと思ってるよ。でも仕方ないだろう。自分の息子が、義理の娘に手を出したなんて、ぶつしか仕様がないじゃないか」と幸一。「でも範経は何もしてなかった」と美登里。「麗華ちゃんとべった







